勘違いしていませんか?仲良しクラブと心理的安全性の大きな溝
昨今、「心理的安全性」をテーマにした書籍や記事が数多く出回るようになりました。パフォーマンスの高い、強いチームづくりや、上司と部下の世代間ギャップからくる不調和の解決策として、「心理的安全性」への関心が急激に高まっています。
そもそも心理的安全性とは何でしょう。「従業員が社内でネガティブなプレッシャーを受けることなく、自分らしくいられると感じる状態。あるいは、同僚とお互いを高め合える関係をもち、建設的な意見の対立が推奨される状態」。これはあくまでもビジネスシーンにおける言い回しになりますが、もちろん、学校でも家庭でも、地域社会のコミュニティでも同じフレーズをあてはめることができます。つまり、良好な関係構築と維持のためにお互いが協力し合い、人と人としての対等な関係において、さまざまな問題解決や生産活動ができる状態をさします。
昨今の新型コロナウィルスで、テレワークや在宅勤務を全社で進める企業が増えている中、これまでの、育児や介護など、ワークライフバランスを目的にした一部の社員でのテレワークや在宅勤務適応から、従業員の大多数でテレワークを実践する動きにシフトしています。ルーチンワークや持ち帰り業務に限定することなく、さまざまな領域の仕事やマネジメント業務がテレワークで本当にできるのでしょうか?
「デキる部下は放っておいても成果を出してくれるけれど、そうじゃない部下はちゃんと目を光らせておかないと心配だ」「離れたところで働かせて、みんなのモチベーションを保てるだろうか」など、突如やってきた聖域なきテレワークに戸惑うマネージャーも少なくないはずです。そんな時にこそ、「メンバーとの心理的安全性」を意識すれば、不要な忖度や遠慮、意思疎通がうまくいかないことがからくる相手への不満を抑え、建設的かつスピーディなチームワークに導くことができます。
まさに離れた環境にあっても、メンバー同士が心理的な距離を感じることなく、積極的にコミュニケーションを取り合うことが求められています。
1.圧倒的な成長を遂げる企業には心理的安全性がある
かつては階層型の組織構造が主流で、業務指示はトップからマネジメントへ、マネジメントから現場へとカスケード(滝が落ちる)で伝達されていました。「上から言われたことは絶対」の文化ですから、個人の感情よりも上意下達の指示が優先されます。「本当はこんな仕事やりたくないのに」「今夜は子供と一緒に過ごしたいのに」なんていう個人的な事情は横に置いておいて、とにかく必死にやらなければならないです。僕は皮肉を込めて、ストームトルーパー(スターウォーズに登場する白い甲冑の兵隊)なんて言ったりします。そんな兵隊で動かしてきたのがこれまでのビジネス構造なわけですが、テクノロジーの急速な発展に伴い、これまでのビジネスモデルでは太刀打ちできない時代に突入しました。
アパレル業界ではメルカリが、タクシー業界ならUber、ホテル業界ならAirBnBのように、突如参入したスタートアップがわずか数年でジャイアント企業に肩を並べているのが事実です。こうしたビジネス変革は、「一見愚かなアイデア」「未経験の経営者」「まずマネタイズしない」「飽和市場に参入」「新しい行動パターンを作る」など、これまでの常識を覆す発想を持つ勢力が牽引しています。まさに、異色のカルチャーを持つ企業が新しい世界を作ろうとしています。そして彼らの最強の武器こそが、心理的安全性を土台にした挑戦と学びの素早いサイクルなのです。
2.「『若手の柔軟な発想が欲しい』に、困惑する若者世代」
イノベーティブな発想で次のビジネスモデルを生み出し続けるには、従来型ビジネス構造を自らの手で破壊し、斬新なアイデアや領域外の知識を取り込まなければいけません。そこで明らかになってきた問題は、日本企業がそれらの自由闊達な発想を受け入れるマネジメントを長い時間をかけて押し潰してきたことです。「黙って言われた通りに仕事しろ」「前例のないことをやるな」、これらの言葉が繰り返しオフィスで使われてきたために、今更、「若手の柔軟な発想が欲しい」「失敗を恐れずにチャレンジしよう」などと言っても手遅れなのが現状です。マネジメントはおろか、会社の文化そのものを換気して入れ替えないことには始まりません。まず、どんな発言であっても上司が傾聴する態度を示し、自発的な取り組みに寛容な支援をすることで初めて、部下が心を開いて向き合うようになります。心理的安全性が求められるのは、まさにこの文化の換気なのです。
3.仕事は人の感情が動かしている
職場では感情的になってはいけない、常に平静を保って業務にあたらなくてはいけない、と思われがちです。実際に、落ち着いて仕事に取り組むことは大事ですが、人間である以上は職場においてもさまざまな感情が湧くのは当然です。
まして、上意下達で、上司から怒られたりプレッシャーをかけられる職場においては、発散できない感情を押しとどめながら仕事をしている人も少なくありません。
認知心理学の研究結果は、感情について様々な知見を与えてくれるようになりましたが、特に重要なのは「感情と反応を切り離す」ということ。
たとえば、職場で誰かに「まだできないの?」とか「何でできないの?」と言われたとします。当然、誰でも腹が立ちますよね。人によっては、キレて周囲に当たり散らす人もいるでしょうし、そこまでいかなくてもむっつり黙ってしまうことはあると思います。原因となった人を無視したり、その人からの依頼をいい加減に扱ったりすることを「パッシブアグレッシブ」といい、往々にして仕事をする上での支障となります。不満や怒りを直接伝えることなく、態度で暗に示すこの状態は非常に危険と言えます。
本人の中で問題が解決されずに鬱積するばかりか、上司からは「何も言ってこないから、悔しいだろうけど受け入れている」という理解にすり替わってしまいます。これは業務の生産性を下げるだけでなく、チームとの不和や働きがいなど、根本的な問題に至る原因でもあります。
4.心理的安全性があるチームほど衝突がある
よく耳にするのが、「私たちの会社には心理的安全性があります」「なぜなら、みんな優しくてとても穏やかな関係だからです」という話です。実は、こう言った発言が出てくるのは僕はもっとも危険だと思っています。
心理的安全性とは、前述の通り、端的に言えば「メンバー一人ひとりが安心して、自分が自分らしくそのチームで働ける」ということ。そして自分らしく働くとは、「自己認識・自己開示・自己表現ができる」ということです。要は、「安心してなんでも言い合えるチーム」が心理的安全性の高いチームなのです。
裏返せば、メンバーがチームに対して心理的安全性を感じていなければ、チームを信頼することはできないし、どんなに目標や計画、役割が明確であっても、仕事に意味を見出すことができず、社会的なインパクトを考えることもできません。
チームの中で自分が自分らしく働いていなければ、他のメンバーから頼られることはないし、自分も他のメンバーに頼ることができないということが起こります。つまり、信頼関係を築けないということです。
たとえば、「じゃあ、あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をして、「わかった、私はこれやります」と言われても、信頼できないから「あいつ、もしかしたら影で仕切っているんじゃないのか?」とか「裏切ろうとしているんじゃないのか?」といった妄想、プラスアルファの変な心理がどうしても働いてしまいがちです。そんなメンバーが集まったチームの生産性は、当然ながら高くなることはありません。
一方、チームに心理的安全性があれば、メンバーを信頼できるようになって尊重するようになります。その中で、誰がいつまでになにをやるかという計画や役割が明確になっていく。そして、「みんなでもっといいことをやろう」「大きいことをやろう」「意義のあることをやろう」という仕事の意味が見えてきて、お互いに頑張って仕事をしたら世の中によい影響も与えられる。一見、残酷なほどにストレートなフィードバックでさえも、愛をもって伝え合うことができるのです。
これを踏まえて、改めて「なぜなら、みんな優しくてとても穏やかな関係だからです」という発言を考えてみると、争いはなくお互いを尊重しているように見えても、それが表に出てきていない、むしろ封じ込める暗黙の文化がある、と解釈することもできます。
僕のチームでは、意見の違いがたっり、感情的に受け入れられないなど問題が起こった場合には、本人同士、あるいはチームで話し合うよう促します。トップである僕が決めてしまうのは簡単なことですが、あえて衝突を促し、それが討論につながり、自らが納得解を得ることで、反論に寛容な文化をつくるのです。逆に、ある社員が自分の意見や感情を認めさせるように僕に働きかけることを許しません。チームはロビイング団体ではなく、スポーツチームであるべきだと思うからです。
5.愚痴が出たら、会話のキャッチボールを始める
心理的安全性を高める上で重要になるのが「建設的」というキーワードです。
たとえば、心理的安全性の高いチームづくりのときに必須なのは「建設的な言葉づかい」で、わかりやすいのは「愚痴を要望にして言い返す」というコーチング法です。
「うちのメンバー、最近、私の話を聞いてくれないだよね」
よくありがちな愚痴ですが、こう返す人が多いのではないでしょうか。
「はあ、そうなんですか、大変ですね」
愚痴をそのまま聞き流すというパターン。また男女差もあるようです。男性は、「ああ、それならこうすればいい。だからもう悩むな」などと解決しようとするというか、話を終わらせる。女性は、「ホント、イヤね、○○ちゃん、頑張って」などと励ます――。
建設的な「要望」で返すなら、そうではなく、次のような言い方になります。
「じゃあ、○○さんは、メンバーにもっと話を聞いてもらいたいんですね?」とか「話を聞いてもらえたら、なにかが変わるんですね?」というふうに、相手のネガティブな発言をポジティブな表現に言い換えて聞き返すわけです。
そうすることで、自分から次のアクション――この例で言えば「話を聞いてもらうにはどうしたらいいのか」――に進むことができるわけです。
たとえば、「最近、残業が多いし、疲れているんだよね」という愚痴だったら、「じゃあ、もうちょっと休みたいんですね?」と聞き返す。本人は確かに休みたいのですから、「そうだね、残業を減らすためになにか工夫しないと……」などと、自分で次のアクションを考えるようになるわけです。
要は、会話を通じて本人の選択肢を増やしてあげることが、コーチングの大事なポイントなのです。
愚痴に限らず、たとえばメンバーが自分の失敗を報告してきたとき――。
「すみません、ミスしてしまいました」
そこでいきなり「おまえ、ダメじゃないか!」と声を荒げて責めてしまったら、相手は言い訳に終始して、次のアクションの選択肢が出てきません。
そうではなくて、「そうですか、なにが起きたんですか?」「わかりました。じゃあ、対策はどうしますか?」「それで、また同じミスをしないように、今後はどんな工夫をしてくれますか?」などと、落ち着いた声で、建設的なほうに会話を持っていくようにする――。そして本人に必要なスキルや態度をフィードバックしてあげる。
そうしたら誰でも「ここが悪かった」と素直に自分の失敗をさらけ出して、「今度は同じミスをしないように、こうやります」と自分から選択肢を考えてくれるはずなのです。
こうしたコーチングの際に心がけてほしいのは、常にメンバーに対して「性善説」に立って会話することです。
みなさんのチームは建設的に対立ができていますか。お互いを尊重して会話ができていますか。テレワークの機会が今後ますます増えていく今だからこそ、ぜひ、メンバーとのコミュニケーションの仕方や、相手の感情に寄り添った向き合い方を実践してみてください。ちょっとした態度の変化でも、相手との心理的な距離をグッと縮めることができきると思います。
あなたのテレワーク武勇伝、ピョートルに聞かせてください!
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